NATURAL FARMING
A REGENERATIVE WAY OF LIFE
一本の稲に心が動く
そこに自然農のすべてがある
この一穂に感動する心さえあれば希望はある
耕さない、草や虫を敵としない、肥料を持ちこまない、を基本とした「自然農」を確立し、全国から学びを求めてくる人に分け隔てなく「自然農という生きかた」を伝え続けてきた川口由一さんに、ナマケモノ教授こと辻信一が、自然農とは何か?、自然農という答えにたどりつくまで、漢方と自立への道について、じっくりお話を伺った対談集。
リジェネラティブ(大地再生)農業を先駆的にとりくんできた川口さんのいのちの道、人の道、我が道を追求する生きかたは、今、答えを求めている多くの人々に、背中を押してくれる一冊となる。
2011年に大月書店より刊行された『自然農という生き方』に、亡くなられる半年前(2022年11月)、奈良のご自宅を訪ねてのインタビューを含んだ、待望の増補改訂版。
>>ご注文はこちら
ー 希望はある、すぐ足もとに ー
2023年11月 奈良・桜井市の川口宅にて
<増補章より>
「この宇宙のできごとは、すべて無目的なんです。人類が生まれたのも、地球が生まれたのも、いろんな星や太陽が生まれたのも、目的があってではない。やがて死んでいくのも目的があってじゃない。
・・・過去につくられたもの、特に紀元前のものには、本当に美しいものがありますよね。
・・・本来のものを見失っているということに気づいて、それをとりもどしさえすればいいのです。」
「いのちのすばらしさに感動するきれいな心があるかないか、ですね。他と比べることはないんです。
・・・一見弱々しい子もいるんだけれども、その子の曇りのない心で行われる小さな行いの美しさにこそ、真(まこと)があるんです。」
「純粋な気持ちでね、いのちのひ弱な一穂(いちほ)の仕事に感激する心をもっていれば、すべてはうまくいくんですね。」
「いのちに対して謙虚であることですね。そして、真理に対しても謙虚に、他人に対しても謙虚に。」
「お米に対しても謙虚に、自然に対しても謙虚に、誠実に、誠実に」
「謙虚に、自ずから然(しか)らしむるの「自然」に従うんです」
本書は、耕さない、草や虫を敵としない、肥料を持ちこまない、を基本とした「自然農」を確立し、 去る6月に亡くなるまで、多くの人々に「自然農という生きかた」を伝え続けてきた川口由一さんへの聞き書きをまとめたものです。ちょうど30年前の出会い以来、ぼくは幾たびもご自宅にお邪魔して川口さんのお話をうかがい、その学びを、『自然農という生き方〜いのちの道を、たんたんと』 (2011年、大月書店)という本にまとめさせていただきました。この数年、あいにく絶版となっていたその本を復刻するとともに、昨年11月に行われた新しいインタビューを加えて増補改訂版とし て生まれ変わったのが本書です。結局、その昨年のインタビューは、「川口さんの遺言」として本書に掲載させていただくことになりました。
改めて今、本書が果たすべき大切な役割があると、ぼくは考えています。 まず、人類の生存自体を脅かす気候危機が深まり、その主要な原因の一つである農業と、それを取り巻く食のグローバルシステムのあり方にしっかりと目を向け直すことが問われている今こそ、もう一度、川口さんの視点から農という営みそのものを見つめることが大切だ、と考えるからです。
また、世界各地で近年、農業を抜本的に見直す機運が急速に高まるなかで、川口自然農との出会いを必要とする新しい読者にこの本を届けたいと思います。特に、気候問題への対策としても世界中で注目されてきた、リジェネラティブ(大地再生)農業の潮流を日本に紹介する活動に参加しているぼくは、この流れのなかで川口さんの言葉が新しい光を放つことを期待するものです。
装丁とイラストを手がけてくれたのは、カナダでアーティストとして活動する大岩さやさんです。 「求めているものは、立っている我が足もとにあります。すべてはここ、自然界で約束されています」。こうした川口さんの言葉に表れた想いを、若者として受け止めて、明るく、温かく表現してくれたものと喜んでいます。
自然農にすでに親しまれている方も、初めて自然農の世界に触れるという方も、ぜひ本書をご一読の上、それぞれの「自然農という生きかた」を見出されるための糧とされんことを願います。
2023年は、E・O・ウィルソンやトム・ラヴジョイといった環境保護運動の巨人たちがこの世を去った年です。 川口さんが彼らの仲間入りをしたことを知って、とても残念です。
人間は自らを利するためにあまりにも大きな力をもち、法、経済、政治をはじめとする人間の構築物のすべてを動員して、自分たちの優位性を保持し続けることを最優先してきました。自分たちのニーズに合わせてすべてをつくり変えてきたのです。自然は、こうした人間のシステムによって排除されてきたのです。
川口さんが目指したのは、そこから抜け出すための人間の生きかたそのものの変革です。それはまず自然に対する敬意と謙虚さから始まります。自然を服従させようとするかわりに、自然の働きを理解し、土壌が栄えることを手助けすることです。自然を加速させようとするかわりに、人間が自然の時間枠に合わせることです。
この本によって、川口さんの影響がより多くの人に及び、その貴重な仕事が継続されることを望みます。
デヴィッド・スズキ(科学者、環境活動家)
川口さんにお会いできたことは、私にとって大変光栄であり、喜びでした。彼の豊かな人生経験とそこから生まれた知恵とに、私は深い印象と感銘を受けました。その仕事には大地への愛と自然との調和を表現する彼の仕事は、土というものの本性について、また土と私たち人間とのつながりについて、私の中に新しい理解を与えてくれたのです。
この度、『自然農という生きかた』の増補改訂版が出版されることを喜んでいます。美しくシンプルで自然に沿った農業が、新鮮で健康的な食べものを提供するだけでなく、気候変動などの大問題に対しても有効だということを、より多くの人々に知ってもらいたいのです。自然農の大家、川口由一と、わが友、辻信一という組み合わせもすばらしい。土を愛し、人類と地球の安寧を願うすべての人にこの本を読んでいただきたい。
サティシュ・クマール(シューマッハ・カレッジ創設者)
川口さん、そして自然農と出会ったことで、野菜も草もそして自然をも生命(いのち)として見るようになりました。それがどれだけ自分を変えたか。自然農は農法ではなく生き方だというのは、そういうことでしょうか。
白取克之(岩木山麓しらとり農場)
豊かさの象徴としての“芝生の庭”に違和感をもち、エコロジストの扉を開いた辻さん。野菜しか育っていない畑の気味悪さに気づいたあなたには、ぜひこの本を開いてほしい。草ボウボウの大地に立てば、本当の豊かさが見えてきます。
上野宗則(ゆっくり小学校ようむ員)
ご縁がめぐり、いのちがめぐり、そうしてらせん状に時を経ての再現に、川口さんの声が聴こえてきそうです。「とても嬉しいです…」と…。
このしあわせの微笑みが、りんとした気持ちのいい風と共に、たくさんの方々のそばに届きますように……。
ひと連なりの中で、学び合える歓びが、いついつまでも続きますように……。
その波紋が、どこまでも拡がりますように……。
ほりこしゆみこ(料理人、生活学研究家)
江戸時代の農業は自給率100パーセント。天候不良でない限り飢餓がない社会の実現。それはそれで良かったのですが、生産性を目指す近代につながりました。同じように土、風、水、太陽による農業でも、「自然農」は必要以上には作りません。自然の中で生かされる間だけ生きていれば良い。今の世界が学び、目覚めなければならない思想です。
田中優子(法政大学名誉教授・前総長)
この本に出会って私の生き方が変わりました。
自然農の畑に立つと自然と自分が謙虚になれる。大安心の心がもてる。
川口さんが教えてくださった謙虚さを大切にしながら、大安心の人生を送っていきたいと願っています。
杉田かおる(俳優)
「自分」と「世界」。この二つの存在の本質を、自然農という生き方を通して探究した川口さんの率直な気づきの数々に触れることができる本だと思います。
私たちが自然界とより深く結びつける生き方を実践することで、「精神世界」という目には見えない世界と、「物質世界」という身体でも捉えられる世界が、私たちの足もとからつながりはじめるという希望が見えてくるのではないでしょうか。
宇野宏泰(自然農法 無の会)
“地球は宇宙の楽園、神々の花園“、私の世界が変わった御言葉です。地球生命のために、私達の続きを生きる人類のために、しあわせの種を宿す、すべての人々と楽園に生き、平和な喜びの世界を創造していきたいです。
小島摩紀(川口由一自然農田スタッフ)
「斎藤君へ地球は宇宙の楽園。楽園に生かされて我がいのちの大いなる全を・・・平成15 年6 月14 日川口由一」
師の直筆サインが私の鍬(クワ)には刻まれている。「鍬に字を書いてくれと言われたのは初めてだな・・・」と川口さん独特の笑顔が今もありありとよみがえる。
師・川口さんの書(遺言)には、自然農を経験すれば気づく、自分の内の《いのちの世界》・・・、地球は立っている我が足元にこそあると説く。「善く生きる」ための農の実践は、地球市民としての新しい農民像を提示し、さらに農にとどまらない「オンブレ・ヌエボ(新しい人間)」のあり方までも描写している。
自然農を極めんとする姿勢は天寿を全うするその日まで・・・私もそうありたいと強く思う本を枕に、志また新たな中秋の名月・合掌。
斎藤博嗣 一反百姓「じねん道」(斎藤ファミリー農園)
いまこそ人間は自然に沿うべきでは?
世界一の富豪が、火星への移住を本気で考えている時代。壊すだけ壊した地球を、捨てると発想する人間がいる。こうした人間の「貪り」が、すべてを悪くする、と川口由一さんは言う。「自然農」という生き方を静かに実践した川口さんは、何も足さない農業で、完全な自然の循環を実現した。それは、「貪り」を自分に厳しく禁じ、自分を自然にそわせる生き方であった。いま必要なのは、火星への移住より、こちらの生き方ではあるまいか。
『月刊クーヨン 2023年12月号』”Book review”
■もくじ
はじめに 辻信一
第一章 自然農はいのちの道
土はいのちたちの歴史
「耕さない」が恵みをもたらす
「見事に生きる」
「足るを知る」生きかた
100%自力、100%他力
いのちの道をはずれない
いのちの道、人の道、我が道を生きる
自分の主になる
孤立を恐れない
幸せはどこにあるのか
第二章 美しい生きかたを求めて
戦争と家族
子ども時代
農家の跡とりとなる
芸術家になりたい
美醜の別を身につける
自然農に反対をした母親
自分のやり方で自然農にとりくむ
お金は後からついてくる
子どもの誕生
第三章 答えはここに
漢方医療と病からの自立
弱さ、強さ、そして病
投げださないで
分を生きる
再び、強さと弱さについて
生きるのも、死ぬのもいのちの営み
若者よ、答えはきみのなかにある
自然農という生きかた
おわりに川口由一
川口さんの遺言ーー希望はある、すぐ足もとに
<2022年11月、奈良・桜井の川口宅にて>
永遠に生きるかのように学ぶ
自然農は農民だけのものじゃない
教えはあちこちで生きている
死ぬまで成長したい
小さき者の小さき行いにこそ真がある
あなたが気づいた時が、ちょうどよいときである
あとがき辻信一
■川口由一氏プロフィール
1939(昭和14)年、現在の奈良県桜井市に生まれる。1970年代より無農薬、無肥料、不耕起を基本とする農業を始め、試行錯誤の末、「自然農」を確立。農薬被害による病の克服を目指すなかで漢方医学と出会う。以来、農と医療の両面から生命の営みに沿った生き方を模索、実践してきた。 1980年代後半より、雑誌『80年代』への連載や自然農田への見学会を開始。以後、「妙なる畑の会」(奈良県桜井市)、「赤目自然農塾」(三重県名張市と奈良県宇陀市にまたがる)、漢方学習会(奈良県桜井市)などの学びの場を通じて後進の指導にあたり、広く”自然農という生きかた”を伝えてきた。
主な著書に、『妙なる畑に立ちて』(野草社)、『自然農にいのち宿りて』(創森社)、『自然農と漢方と:いのちに添って』(言視舎)、死後間も なく出版された『傷寒論を読む』(言視舎)など。
映像作品に、ドキュメンタリー映画「自然農 川口由一の世界 1995年の記録」(配給・制作:
グループ現代、1997年)、「川口由一の自然農というしあわせ with 辻 信一」(配給・制作:ゆっくり堂、2011年)、「Final Straw 自然農が教えてくれたこと」(監督:パトリック・ライドン&姜受希、配給:City as Nature、2015年)など。このうち、「川口由一の自然農というしあわせ」と「Final Straw」は、英語版、韓国語版がある。また、本書の前身となる『自然農という生き方ーいのちの道を、たんたんと』(大月書店、2011年)は、中国語、台湾語、韓国語に翻訳出版された。
2023年6月9日、桜井の自宅にて永眠。
『自然農という生きかた』 川口由一 + 辻 信一
2023年9月11日 初版発行
四六判変形・240ページ 定価1,980円(本体1,800円+税10%)
発行:ゆっくり堂
装丁・イラスト:大岩さや(foonie)